「……っ!! こ、これは!?」
『切り札』の効果は絶大だった。店にミノタウロスが乱入してきてもナイフ研ぎを止めそうもなかったブーレイが慌てて姿勢を正し、テーブルに置かれた『切り札』、2本のワインボトルを食い入るように見ていた。
「幻のワインと言われてる『シャンセ・ロウトワール』……それが2本も、だと……」
「しかも、うち1本は最高傑作と名高い491年物です。私の家の地下倉庫で埃をかぶっていた物ですが、よろしければ差し上げますよ。もちろん、タダでというわけにはいきませんけどね」
「……ちっ、まぁいいだろう。話は聞いてやる。仕事を受けるかどうかはそれ次第だ。少しでも気に入らなければ即刻断るからな」
さも気乗りしなさそうに吐き捨てながら、男にテーブルの席をすすめるブーレイだったが、その視線はワインボトルに釘付けのままだ。
男はその反応に気をよくし、心の中で“形見屋”攻略法を教えてくれた知人に感謝しつつ、ブーレイの正面の席に腰を下ろした。
「それはもちろん。条件が気に入らなければ、断っていただいて結構です。ですが、きっと満足して頂けると思いますよ。なにせ、今回の依頼主はオランでも有数の貴族ですからね。破格の報酬をご用意できるかと」
「OK、わかった。悪いがこの話はなかったことにしてもらう。その2本のワインを持って俺の前からとっとと消えてくれ。そして、2度と目の前に現れるな」
訪れる沈黙。確かに断っていいとは言ったが、まさかこのタイミングで断られるとは夢にも思っておらず、男は次の言葉を用意するまでに数秒を要してしまった。
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